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日常をつらつら綴るブログ

異世界をつなぐウィンナーコーヒー

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少し前の話になるが、神田明神近くのコーヒーショップで横並びに座る男女を見た。

4人掛けのテーブルをぜいたくに使った構図。男は紺のシャツに黒のパンツを履いていた。女はデニムのロングスカートに白のブラウス。2人にはどことなく統一感がある。時折、男女は言葉を交すが目は決して合わさない。お互いがまっすぐ前を向いて話している。

 

私はその横のカウンター席で、視界の端っこに男女を置きながら本を読んだ。もちろん本の内容なんて頭に入ってくるわけがない。ちらちらと男女が動く様子を観察しながら、一体どんな話をしているのかと物思いに耽った。

 

 

「ここではない別の世界があるとしたら、あなたはそこに行きたいと思う?」女は言う。

 

「別の世界って、たとえば?」男は答える。

 

「こことすごく似ているんだけど、みんながステンレスでできているように冷たいの。たたくとカシャカシャ音が鳴って、話しかけても通じない。目は合うんだけれど、心が合わない。けれど生活するために必要なものは揃っている。ただ、そこで暮らす人と心が合わないだけ」

 

「君もいないの?」口角を少しだけ上げて、男が聞く。しかし、それ以上女は話さなかった。

 

 

女の雰囲気が宇宙人に似ていたからだろうか。男を別の世界へ誘う、生き物のように見えた。無理強いはしない。しかしそれが男にはたまらなく興味をそそられる。

 

そんな会話が繰り広げられていたら、私は貴重な瞬間に出会っていたのではないだろうか。クリームが溶けきったウィンナーコーヒーが、無くならないように一口ずつ口に含んだ。